文化になる思想 Ⅲ ― 受容という創造

コラム・アート概論

思想はどのように文化になるのか

ここまで、日本文化には、外からもたらされた概念や思想を形式へと翻訳する傾向があること、そして現代アートもまた、「問い」より「返し」として受容されやすい側面があることを見てきた。

そこで最後に考えたいのは、日本において「受容する」とは何を意味するのかということである。

私たちは西洋の思想や芸術を論じるとき、「本来の意味を正しく理解すること」が望ましい受容だと考えがちである。

しかし、文化とは、それぞれ固有の歴史や生活の中で育まれてきたものである。

そのため、西洋で生まれた概念を、西洋とまったく同じように理解し、同じように受け入れることは、おそらく不可能である。

なぜなら、日本には日本の文化的な受容の回路が、長い時間をかけて育まれてきたからである。

日本は古くから、外来文化を拒絶するのではなく、自らの文化の中へ取り込み、少しずつ姿を変えながら共存させてきた。

出典:Artpedia/漢字の受容、かなの発明
出典:Artpedia/漢字の受容、かなの発明
出典:Artpedia/漢字の受容、かなの発明

漢字は日本語の中で訓読みを獲得し、仏教は神道と共存し、茶は茶道となり、中国や朝鮮半島から伝わった陶芸は日本独自の美意識を育てた。

出典:Artpedia/神仏習合
出典:Artpedia/神仏習合

近代以降も、クラシック音楽、ジャズ、ロック、ヒップホップ、アニメーション、ゲームなど、多くの文化が日本へ入りながら、日本独自の形式へと変化してきた。

出典:Artpedia/手塚治虫 作品

これは単なる模倣ではない。

また、誤読でもない。

一度、日本という文化の回路を通過することで、新しい文化へと変形しているのである。

現代アートもまた、その例外ではない。

デュシャンが投げかけた制度への問いは、日本では「発想のおもしろさ」という形式として受け止められやすい。

作品は知識となり、やがて作法となる。

その作法を踏まえながら、さらに少しだけ編集し、新しい表現へつなげていく。

それは、西洋とは異なる創造の方法である。

日本文化では、「まったく新しいもの」をゼロから生み出すことだけが創造ではない。

共有された型を深く理解し、その型に新しい返答を重ねることもまた創造なのである。

茶道も、歌舞伎も、落語も、俳句も、そのように発展してきた。

出典:Artpedia/茶道、陶芸

優れた表現とは、型を捨てることではなく、型を深く理解したうえで、その意味を少しずつ更新していくことだった。

日本では古くから、このような創造のあり方を「守破離」という言葉で考えてきた。

まず型を学び、次にその型を深く理解し、最後にそこから自由になるという考え方である。

出典:Artpedia/茶道、陶芸

現代アートもまた、この視点から読み直すことができる。

作品を知ることが「守」である。

作品同士の関係を読み、問いと返答の流れを理解することが「破」である。

そして、自らの表現や解釈を、その歴史への新たな応答として生み出すことが「離」である。

出典:Artpedia/奈良美智

ただし、その創造には前提がある。

編集するためには素材が必要である。

返答するためには、その前の文脈を知らなければならない。

出典:Artpedia/漫才

漫才を長年見続けた人だけが引用や構造の変化に笑えるように、アニメーションを見続けた人だけが作画の系譜を読み取れるように、現代アートもまた、歴史を知ることで初めて作品同士の対話が見えてくる。

出典:Artpedia/作画の様子

だから本当に必要なのは、「作品の意味」を教えることではない。

作品がどのような歴史の中から生まれ、何に応答し、何を更新したのか。

その流れを示すことである。

それは正解を教えるためではない。

歴史という対話へ参加するための入口を開くためである。

このように考えると、日本は西洋の思想を理解できなかったのではない。

日本は、日本という文化が長い時間をかけて育ててきた受容の方法によって、それらを読み替え、新しい文化へと育ててきたのである。

出典:Artpedia/柳幸典

その結果、思想は生活へ浸透し、理念は形式となり、概念は文化となった。

だから日本文化は、思想を失った文化ではない。

むしろ、思想を文化へと変換し、人々の身体や生活の中へ定着させる文化なのである。

出典:Artpedia/宮島達夫

現代アートもまた、その回路を通して受け取るなら、作品は完成された答えではなく、新しい認知を受け渡すための形式として見えてくる。

文化とは、思想が終わる場所ではない。

思想が人々の認知となり、その認知が新たな形式となって、さらに次の創造へ受け継がれていく営みなのである。

出典:Artpedia/岡倉天心「茶の本」
出典:Artpedia/岡倉天心「茶の本」
出典:Artpedia/岡倉天心

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