混ぜすぎた美術史 121 ~アントン・レームデン

アート

アントン・レームデン(1929–2018、オーストリア)

世界は地層になっている

アントン・レームデンの絵を見ると、まず地面が気になる。

山や草原を描いた風景というより、地面そのものが画面を占領している。水平に走る線、重なった岩盤、裂け目、沈み込む土地。そこから火が噴き出していることもある。遠くの風景を眺めているというより、地球の断面を見ているような感覚に近い。

出典:Artpedia/アントン・レームデン「ウォー・ピクチャーⅢ」

レームデンはウィーン幻想派の主要な画家の一人で、初期には中国山水画にも関心を持っていた。しかし、戦争体験を背景に、次第に穏やかな風景から離れ、崩壊する土地、クレーター、沈没する大地、戦争や自然災害を思わせる風景へと向かっていった。

面白いのは、そこで描かれているのが単なる「荒廃した風景」ではないことだ。

レームデンの画面では、人物まで地層のように見える。

出典:Artpedia/アントン・レームデン「ゴーレムの崩壊Ⅰ」

人間が地面の上に立っているのではなく、人間もまた地面から切り出された一つの層になっている。建物も岩も人物も、別々の物体というより、同じ大地が別の形になったもののように見えてくる。

だから、レームデンの風景には不思議な時間感覚がある。

地面には過去が積み重なっている。戦争の記憶も、自然の変化も、文明の痕跡も、すべてが一つの地層に沈んでいる。そして、ときどきその内部から火が出る。

出典:Artpedia/アントン・レームデン「戦車戦」

火は、地面の外からやってきたものではない。

何層もの時間の下に残っていたものが、突然表面に現れているように見える。

ここで、実際の作品を近くで見ると、もう一つ不思議なことに気づく。

これほど地層や岩盤を描いているのに、絵具が意外なほど薄い。

出典:Artpedia/アントン・レームデン「アーレンベルク公園の高射砲塔」

厚く盛り上げて岩の物質感をつくるのではなく、薄い絵具を重ねながら、画面の奥に層をつくっている。遠くから見ると巨大な地面なのに、近づくとその地面は絵具の厚さではなく、色と線の重なりによって現れている。

この薄さは、1950年代以降のアメリカ抽象絵画におけるヘレン・フランケンサーラーのステインを思わせるところもある。

出典:Artpedia/アントン・レームデン「ボスポラス」

もちろん、レームデンをフランケンサーラーの技法の延長として考えることはできない。二人の目的も文脈も大きく違う。

しかし、絵具を厚く「物体化」するのではなく、薄い絵具によって画面そのものに色を染み込ませることで、別の空間をつくるという感覚には、どこか響き合うところがある。

出典:Artpedia/アントン・レームデン「崩壊する馬Ⅰ」

フランケンサーラーが薄い絵具によって風景を抽象的な色の場へ変えていったとすれば、レームデンは薄い絵具によって、風景を地球そのものの断面へ変えていく。

ここには、戦後のもう一つの現代性がある。

出典:Artpedia/アントン・レームデン「スモールリード」

科学技術は、空を越え、宇宙へ向かい、世界を遠くから見るための新しい視線をつくっていった。一方でレームデンは、反対に地面を見る。

ただし、それは昔の自然へ戻ることではない。

地面はもはや牧歌的な自然ではない。戦争によって裂け、文明によって変形し、時間によって堆積した場所である。そこには人間の歴史と自然の歴史が区別されないまま重なっている。

出典:Artpedia/アントン・レームデン「崩れ落ちる山ギリシャⅡ」

後年、ウィーンの地下鉄フォルクステアター駅の壁画では、レームデンは宇宙の始まりから自然の進化までを描き、水平な地質層と生命の進化を一つの大きな時間として構成している。ここでも、地層は単なる風景ではなく、世界の時間を表す構造になっている。

フックスが古い神話や宗教を現在へ戻し、ハウズナーが遠近法や記号を使って未知の空間をつくり、フッターが物体や目を空中に浮かせ、ブラウアーが地面から生命を発芽させるとすれば、レームデンはさらに地面そのものを世界の基本構造にしてしまう。

出典:Artpedia/アントン・レームデン「休止Ⅱ」

そこでは、人物も建物も自然も、すべてが層になる。

過去と現在、自然と文明、生命と破壊、地面と身体。

それらを一つに溶かすのではなく、薄い絵具の中に何層も重ねていく。

だからレームデンの絵は、終末の風景であると同時に、世界がまだその内部に何かを抱えているようにも見える。 彼は皿に、地球の断面と積み重なった時間を、薄い絵具と噴き出す火というルーで盛ったのだ。

出典:Artpedia/アントン・レームデン「自然の生成 フォルクスシアター」(ウィーンの地下鉄フォルクステアター駅の壁画)
出典:Artpedia/アントン・レームデン「自然の生成 フォルクスシアター」(ウィーンの地下鉄フォルクステアター駅の壁画)

カツカレーカルチャリズム画家列伝35 ~ウィーン幻想派:ルドルフ・ハウズナー、エルンスト・フックス 他 編 | それいけ!カツカレーカルチャリズムマシーン ~思考と余剰を駆動する美術史ブログ

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