ジャン・デュビュッフェ(1901–1985、フランス)
美術の外部を盛りつけた料理人
ジャン・デュビュッフェの作品を見ていると、美術が長い時間をかけて磨き上げてきた「美しさ」とは異なる価値が立ち現れてくる。
ざらついた画面。
子どもの落書きのような線。
土や石を思わせる荒々しい質感。
そこには技巧を誇示する美しさではなく、生きることそのものに近い力が宿っている。

例えば《婦人の身体(Corps de dame)》では、女性像は伝統的な人体表現とは大きく異なり、厚く盛り上げられた絵肌と荒々しい線によって、大地そのもののような存在として描かれている。人物は「美しく描かれる対象」ではなく、生命の塊として画面に現れているのである。

また、《パリのサーカス(Paris Circus)》の連作では、街並みや人々、自動車や建物が、子どもの絵を思わせる自由な線で画面いっぱいに描かれる。遠近法や整った構図よりも、「街を歩いて感じる生命のエネルギー」そのものが優先されている。

しかし、デュビュッフェの本当の革新は、その独特な画風だけではない。
彼は、美術教育を受けていない人々や精神病院の患者、独学の制作者たちが生み出した作品を収集し、それらを「アール・ブリュット(生の芸術)」と名付けた。
それまで美術史の外側に置かれていた表現を、美術として見つめ直したのである。

重要なのは、彼らを近代美術へ取り込もうとしたわけではないことだ。
むしろ、美術の外側に存在する創造の力によって、美術そのものの境界を揺さぶったのである。
それは新しい様式を発明したというより、新しい見方を発明したと言ってよい。

美術館の内側と外側。
教育と独学。
洗練と粗野。
芸術家と名もなき制作者。
彼は一枚の皿に、美術とアール・ブリュットを前菜のように盛りつけ、「創造」という料理は一つのレシピだけではできないことを示したのである。


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