ヘンリー・ダーガー(1892–1973、アメリカ)
誰にも見せることのなかった宇宙
ヘンリー・ダーガーは、美術運動にも画壇にも属さなかった。
孤児院で幼少期を過ごし、その後は病院の清掃員として働きながら、質素な生活を送り続けた。
しかしその一方で、彼は半世紀以上にわたり、誰にも見せることなく、一つの巨大な世界を作り続けていた。
死後に発見された『非現実の王国にて(In the Realms of the Unreal)』は、一万五千ページを超える物語である。

そこにはヴィヴィアン・ガールズと呼ばれる少女たちが登場し、子どもたちを奴隷にする国々との終わりなき戦いが描かれている。


物語に添えられた巨大な水彩画には、花々が咲き乱れる楽園のような風景と、戦争や暴力が同じ画面の中に共存している。雑誌や絵本の切り抜きを取り込みながら描かれたその世界は、どこか幼く、それでいて圧倒的な密度を持っている。

彼は誰かに評価されるために描いたのではない。
芸術家になろうとしたわけでもない。
世界がそこにあったから描き続けたのである。

その姿は、ボスの幻想世界、若冲の生命宇宙、ルソーの夢のジャングル、シャガールの空を飛ぶ恋人たちにも通じている。
彼らは現実を写したのではない。
それぞれが、自分だけの世界そのものを発明したのである。

デュビュッフェが美術の外部にある創造を見出した人だとすれば、ダーガーは最初からその創造の中で生きていた人だった。
彼の作品は、美術史のために生まれたのではない。
人間は誰に命じられなくても世界を想像し、物語を紡ぎ、新しい宇宙を作り出してしまう。

ダーガーは、その宇宙を一枚の皿に盛りつけるように描き続けた。
現実と幻想。
戦争と楽園。
そのすべてが並ぶ皿は、誰かに振る舞うための料理ではない。 彼自身だけが暮らし続けた、もう一つの世界そのものだったのである。

カツカレーカルチャリズム画家列伝91 ~ヘンリー・ダーガー 編 | それいけ!カツカレーカルチャリズムマシーン ~思考と余剰を駆動する美術史ブログ

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