カツカレーカルチャリズム画家列伝91 ~ダーガー 編

アート

内部世界の持続者 ― ヘンリー・ダーガーと非公開制作の現在

出典:Artpedia/ヘンリー・ダーガー

発見された世界

ヘンリー・ダーガーの名前が広く知られるようになったのは、彼の死後のことである。1973年、シカゴの小さなアパートの一室が片付けられる際、大家であったネイサン・ラーナーとキヨコ・ラーナーによって、膨大な量の原稿と絵が発見された。部屋は質素で、長年同じ生活を続けてきた人物の痕跡以外には目立ったものがなかったが、そこに残されていたのは、単なる日記やスケッチの束ではなかった。手書きの物語は1万5千ページを超え、巨大な水彩画やコラージュ、地図、天候記録、人物一覧が、几帳面に保存されていたのである。

それらは、外部に向けて発表されることを前提とした作品ではなかった。署名もなければ、展示の痕跡もない。彼がこれらを誰かに見せようとしていた形跡はほとんどない。にもかかわらず、それらは異様な持続力を持ち、何十年ものあいだ更新され続けていた。ここで重要なのは、その量や異様さではなく、それが「閉じた世界の持続」として存在していたという点である。

ダーガーはしばしばアウトサイダーアートの代表的作家として語られる。しかしこの分類は、彼の制作の本質を半分しか捉えていない。彼は外部の美術制度から孤立していたという意味ではアウトサイダーであるが、同時に、彼の制作は単なる外部者の表現ではなく、内部世界を維持するための長期的な構築行為だった。

彼の作品を理解するには、まず「発見された」という状況自体を考えなければならない。彼の制作は評価を待っていたのではない。評価されなくても成立していた。むしろ、評価とは無関係に続いていたのである。この点において、ダーガーは現代の制作にとって予期せぬ参照点となる。

出典:Artpedia/ヘンリー・ダーガー

成育環境と制作の必然

ダーガーの幼少期は厳しいものであった。母は早くに亡くなり、父は精神的な問題を抱えて施設に入れられ、彼自身も児童施設や知的障害児施設に収容される。そこでの生活は、現在の基準から見れば抑圧的で、暴力的な要素を含んでいたと考えられている。彼は施設からの脱走を繰り返し、最終的にシカゴに落ち着き、病院の清掃や雑務の仕事をしながら、極端に孤立した生活を送った。

この伝記はしばしば、彼の制作を説明するための因果関係として語られる。すなわち、過酷な環境が彼を内向的にし、創作へと向かわせたという説明である。しかし、この説明は十分ではない。重要なのは、彼が制作によって「癒された」というよりも、制作によって「世界を維持した」という点である。

彼にとって制作は、自己表現の手段というよりも、存在の基盤に近いものだった。外部との関係が希薄であるほど、内部の世界は維持されなければならない。物語や絵は、孤独を埋めるための装置ではなく、世界を持続させるための装置として機能していた可能性がある。彼の作品は完成に向かうのではなく、更新に向かう。終わりを持たず、ただ持続する。そこには、外部の観客を想定した構造は見られない。

先天的な特性、発達特性、宗教的観念、環境要因。これらが複合して彼の制作を形成した可能性はある。しかし、どれか一つで説明することはできない。むしろ重要なのは、彼が外部から世界を与えられなかった場合に、内部で世界を構築し、それを維持する技術を獲得したという事実である。

見せない制作

ダーガーの制作の最大の特徴は、それが「見せる前提を持たない」という点にある。芸術は通常、観客や読者を想定する。たとえ内省的な作品であっても、どこかに他者がいる。しかしダーガーの制作は、ほとんど完全に閉じている。

彼の物語は長大で、詳細で、繰り返しが多い。絵は巨大で、同じ人物や構図が反復される。切り抜きやトレースが用いられ、既存のイメージが再配置される。そこには引用や再利用があるが、それは文化的な遊戯としてではなく、世界の維持のために行われている。

この制作は日記に近いのかもしれない。しかし一般的な日記とは異なる。日記は時間の記録であるが、ダーガーの制作は時間の持続である。日々の更新は、出来事の記録というよりも、世界の継続のための作業である。子供が毎日同じキャラクターを描き続けるような反復性がありながら、それは外界に開かれていない。子供の絵が外界との接続を前提とするのに対し、ダーガーの制作は外界からの撤退の上に成立している。

見せない制作とは、評価を拒否する制作ではない。評価を必要としない制作である。これは現代において、再び重要な意味を持ち始めている。

出典:Artpedia/ヘンリー・ダーガー

終わらない更新

ダーガーの物語と絵は、完成という概念を拒む。彼は世界を作り、その世界を更新し続けた。これは一つの作品というよりも、長期的な世界構築のプロジェクトである。巨大な叙事詩のようでありながら、演奏されることはなく、出版されることもなかった。ワーグナーの楽劇が観客を前提とした総合芸術であるならば、ダーガーの制作は観客不在の総合世界である。

更新され続ける世界は、現代において一般的になりつつある。オンラインゲーム、ファンフィクション、個人の神話的設定、SNSの非公開アカウント。完成よりも更新が重視される文化の中で、ダーガーの制作は極端な先行例として読み直される。彼は一人で、何十年も、更新し続けた。終わらない物語を、終わらない世界として維持した。

ここで重要なのは、更新が創造性の証明ではなく、持続の手段であるという点である。更新は評価のためではなく、世界を存続させるために行われる。ダーガーの制作は、完成された作品というよりも、存在のインフラに近い。

現代への接続

現代の制作環境は、公開と非公開の境界が曖昧になっている。誰もが発表できる一方で、誰にも見せない制作も増えている。非公開のSNS、クローズドなコミュニティ、個人的なアーカイブ。評価を前提としない制作は、むしろ一般的になりつつある。

ダーガーの制作は、この状況に奇妙な形で接続する。彼は公開を拒否したわけではない。公開の必要がなかった。彼の世界は、外部の観客がいなくても成立していた。現代の多くの制作も、必ずしも公開を前提としない。更新し続けること自体が目的となる場合がある。

この点で、ダーガーは単なるアウトサイダーではなく、非公開制作の極限的な形として読むことができる。彼の制作は、他者の承認がなくても持続する世界のモデルである。

出典:Artpedia/ヘンリー・ダーガー

カツカレーカルチャリズムの作家として

カツカレーカルチャリズムの視点から見たとき、ダーガーの制作は特異な位置を占める。彼の世界は、多文化的な要素の混交によって構成されている。雑誌の切り抜き、児童書のイメージ、宗教的モチーフ、戦争の記録。それらは引用としてではなく、世界の素材として取り込まれる。境界は曖昧で、ジャンルは混在し、過剰な反復が持続を支える。

ここでの多文化性は、外部文化の消費ではない。内部世界の維持のための資源である。余剰は装飾ではなく、持続のためのエネルギーである。美味しさは、内部でのみ成立する。彼の制作は、文化の引用を楽しむものではなく、文化を世界構築の素材として用いるものである。

この意味で、ダーガーはカツカレーカルチャリズムの極端な作家である。多文化的要素を混交し、境界を横断し、余剰を持続のエネルギーとする。しかしそれは、外部への提示のためではなく、内部世界の維持のために行われる。

内部世界の現在

現代において、世界は外部から与えられにくくなっている。宗教、国家、物語、共同体。かつて世界を支えていた枠組みは弱まり、個人が世界を構築する必要が生じている。ダーガーはその極端な例である。彼は世界を与えられなかったために、世界を作り、それを持続させた。

彼の制作は、共感と恐怖の両方を呼び起こす。これほど閉じた世界を持続させることは、ある種の極限である。しかし同時に、現代の制作の多くは、程度の差こそあれ、個人の内部世界の持続として行われている。更新され続けるドローイング、非公開のテキスト、終わらないシリーズ。完成よりも持続が重視される制作は、ダーガーの制作と奇妙に共鳴する。

彼は人に見せるために作らなかった。しかし結果的に、それは他者に見られることになった。この逆説は重要である。見せるために作られた作品が消費され、見せるためでない制作が残ることがある。ダーガーの制作は、見せない制作がどのように持続しうるかを示している。

出典:Artpedia/ヘンリー・ダーガー

持続する世界

ヘンリー・ダーガーの制作は、芸術の外側に位置するようでいて、芸術の根本に触れている。制作とは何か。世界とは何か。誰のために作るのか。彼の作品はこれらの問いに対して、極端な形で応答する。誰のためでもなく、しかし確実に存在する世界を作ること。その世界を更新し続けること。終わらない物語を持続させること。

彼の制作は、表現というよりも構築であり、作品というよりもインフラである。内部世界を持続させる技術としての制作。これは現代において、再び重要な意味を持ち始めている。外部の承認が不確かな時代において、内部の世界を持続させること。それは孤立の証ではなく、持続の技術である。

ダーガーは孤独だった。しかし彼の制作は孤独の記録ではない。世界の持続の記録である。そしてその持続は、現代の制作の多くにとって、遠い鏡のように機能している。彼の世界は閉じているが、その閉じ方は、現代の制作の一部にとって、むしろ開かれている。

内部世界を持続させる者として、ダーガーは今なお現在に接続している。

出典:Artpedia/ヘンリー・ダーガー

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